夏の生活

標高1000mの高原にも夏がきた。人に会えば、みなあいさつがわりに「暑いなあー」と言う。たしかに暑い。それに高原の夏は、気温以上に日差しが強い。 ジリジリする。しかし誰も嫌がっているふうではない。むしろうれしそうだ。昼も夜も半袖で過ごせる季節。畑が一年中で一番にぎやかな季節。貴重な一瞬の夏だ。
 トマトが赤くなる速さは、気温しだい。寒いとゆっくりだが、暑くなるにつれて、どんどん早くなってくる。取っても取ってもたちまち赤くなる。 キュウリの生育も暑さしだい。これだけ暑いとたちまち大きくなる。そして最初、大きくなるのが待ちどうしかったナスやピーマンも、花を咲かせ実をつけ、 さらに枝を伸ばし、枝分かれし、またそれぞれ花を咲かせ実をつけさらに枝を伸ばし枝分かれし…きりがない。 こうなってくると、畑で働く人の生活も変化する。朝、明るくなるのと同時に収穫スタート。 トマトをもぎ、キュウリを取り、ナスやピーマンを取りと、毎日ひたすら収穫。毎日どっさり取れる。 そのうちふと気が付くと、せっかくきれいに除草したニンジン畑が、ネギ畑が、またすっかり草だらけだ。たいへん、草取り、草取り…、 それから秋の準備、キャベツを植え、白菜を植え、ホウレンソウをまいて…。しだいにめまぐるしいと言うか、わたしが野菜にこき使われているような気さえしてくる。 わが家のささやかな家庭菜園である小さなイチゴ畑は、どうしても手が回らず、去年同様またすっかり草に覆われてしまった。
 しかし、そうこうするうち、お盆を過ぎてしばらくすると、急に涼しい風がふいてくる。もう萩が、オミナエシが咲いている。稲穂がかしいでくる。 ほんとうに一瞬の夏なのだ。

写真:モロッコインゲンのトンネル
今年はここの畑で作業中にギンヤンマとオオムラサキを見かけた。どちらも今では希少な種だ。